ハミルトン形式の力学

 今回のテーマは「ハミルトン形式」です。ラグランジュ形式でも、\xi^iを独立変数のように扱うと、ラグランジュ方程式は速度位相空間において、2N個の1回微分方程式となることがわかりました。しかし、力学理論を美しく表現し、見通し良くするためには、q^iに共役な一般化運動量p_iを独立変数にとるのがよいです。そこで、q^ip_iを独立変数として、力学を定式化したものがハミルトン形式です。





正準変数

 すでに、導いた基本変分式 *\Theta = p_i \delta q^i - H(q,p) \delta t において、変分 \delta q^i の係数がその p_iでした。ここで、 p_iは前回 ( 9 ) で定義された

 p_i = \frac{\partial L(q,\dot{q})}{\partial \dot{q}^i} = \frac{\partial L(q,\xi)}{\partial \xi^i} \tag{1}

です。このq^ip_iを互いに正準共役な変数といい、両方をまとめて正準変数といいます。そして、q^ip_iの張る2N次元空間を位相空間といいます。


 独立変数としてp_iを絶対的に取らなければならない理由はないですが、このようにすると、q^ip_iが対照的にな値、きれいな形式が得られます。さらにもう一つの理由は、次に示すように、基本変分式 *\Theta の第2項のハミルトン関数Hの性質によるものです。

 Hは前回の ( 10 ) で次のように定義されました

 H(q,p ) = p_i \xi^i - L(q,\xi) \tag{2}
 
この式の微分を取ると、

 dH = p_i d \xi^i + \xi^i d p_i - \frac{\partial L(q,\xi)}{\partial q^i}d q^i -  \frac{\partial L}{\partial \xi^i} d \xi^i  \tag{3}

となります。ここで、p_iの定義 ( 1 ) を用いると、第1項と最後の項は打ち消して

 dH = \xi^i dp_i - \frac{\partial L}{\partial q^i}dq^i \tag{4}

を得ます。さらに ( 1 ) を\xi^iについて解いて、\xi^iq^ip_iで表すと;

 \dot{q}^i = \xi^i = u^i(q,p ) \tag{5}

この\xi^iの式を ( 4 ) に代入すれば、( 4 ) の右辺はq^i,p_iのみで表されます。そして、( 4 ) では d\xi^i は消えて、微分 dq^i  dp_i のみになったことから分かるように、Hは本質的にq^ip_iで表される量であることを意味します。これが力学変数としてp_iを取る理由です。




 L 不定性と H の関係

 「最小作用の原理:ハミルトンの原理」で述べたように、 L には時間による全微分の項を付け加えてもラグランジュ方程式には影響がありません。つまり、 L には不定性がありました。その付加項 dF/dt H にも寄与しないことは調べておく必要があります。

 L' = L + \frac{dF(q)}{dt} \tag{6}

とおいて、L'からハミルトン関数 Hを求めてみます。F\xi^iによらないとしました。

 p_i' = \frac{\partial L'(q,\xi)}{\partial \xi^i} = \frac{\partial L(q,\xi)}{\partial \xi^i} + \frac{\partial F}{\partial q^i} \tag{7}

これより、L'から導かれるハミルトン関数H'

 
\begin{eqnarray}
H' &=&p_i' \xi^i-L'=\left( p_i+\frac{\partial F}{\partial q^i} \right) \xi^i-L-\frac{\partial F}{\partial q^i} \xi^i \\
&=& p_i \xi^i-L=H \tag{8}
\end{eqnarray}

となります。このように、LL'とは同じハミルトン関数を与えます。したがって、Lには時間による全微分項の不定性があります。




ハミルトンの正準方程式

 ハミルトン形式での運動方程式を導きます。( 4 ) の右辺第二項をラグランジュ方程式 ( 2 ) を用いて書き換えると、

 dH(q,p)=\dot{q}^idp_i-\dot{p_i}dq^i \tag{9}

となります。これより


\left.
 \begin{aligned}
  \dot{q}^i &= \frac{\partial H}{\partial p_i}\\
  \dot{p_i} & = -\frac{\partial H}{\partial q^i}
 \end{aligned}
 \right\}
 \qquad \left(i=1 \sim N \right) \tag{10}

を得ます。これは力学変数q^ip_iの時間変化を与えるものなので、運動方程式となります。これをハミルトンの正準方程式、あるいは単に正準方程式といいます。
 このように、ハミルトン形式での運動方程式Hにより完全に決まります。したがって、Hラグランジュ形式におけるLと同様の役目をする力学的特性関数です。




位相空間と変分原理

 ご存知のように、力学系の状態は、その中に含まれる質点の位置と速度を同時に決めれば決まります。ハミルトン形式では、速度の代わりに運動量を用いて表します。
 2N次元位相空間の中の一点(q^i,p_i)を指定すれば状態は決まります。(q^i,p_i)の値は時間とともに変化するので、力学系の運動は位相空間の中の曲線で表されます。それを状態曲線と呼ぶことにします。
 拘束条件のある場合は、その拘束条件によって許される状態は制限されるので、位相空間の中で状態曲線の動き得る範囲は制限を受けます。例えば、R個の拘束条件があるとき、状態曲線の動く範囲は位相空間の中の2N-R次元空間内に限られます。
 正準方程式は、位相空間における最小作用の原理からも導くことができます。ただし、この場合の変分は、q^i,p_iともに独立変数として変分するので、ラグランジュ形式の変分とは異なるものです。
 作用積分の中のLは、位相空間では次のようになります:

 L=p_i\dot{q}^i-H(q,p) \tag{11}

位相空間の2点P_1(q^1,p_1,t_1),\ P_2(q^2,p_2,t_2)を結ぶ作用積分

 J\left[ q,p \right] = \displaystyle \int_{t_1}^{t_2} \left( p_i\dot{q}^i-H \right)dt \tag{12}

です。この変分\delta J=0から正準方程式が導かれます。この作用積分に対して、両端を固定した変分を行います。

 \delta J\left[ q,p \right] = \displaystyle \int_{t_1}^{t_2} \left( p_i\delta \dot{q}^i+\dot{q}^i \delta p_i - \frac{\partial H}{\partial q^i}\delta q^i - \frac{\partial H}{\partial p_i}\delta p_i \right)dt=0 \tag{13}

例により、第1項は \delta \dot{q}^i=d(\delta q^i)/dtを用いて、部分積分を行い、積分された項p_i \delta q^i(t_1)p_i \delta q^i(t_2)境界条件によりゼロです。よって、

 \delta J\left[ q,p \right] = \displaystyle \int_{t_1}^{t_2} \left\{ -\left( \dot{p}_i + \frac{\partial H}{\partial q^i} \right)\delta q^i + \left( \dot{q}^i-\frac{\partial H}{\partial p_i} \right)\delta p_i \right\}dt=0  \tag{14}

を得ます。 \delta q^i ,\delta p_iは独立変分なので、それらの係数因子をゼロと置くことで正準方程式 ( 10 ) が得られます。