最小作用の原理:ハミルトンの原理

 今回のテーマは「最小作用の原理(principle of least action)」です。最小作用の原理とは、質点の運動経路に沿った作用積分が最小値(停留値)をとるというもので、この原理を用いて運動方程式を導くことができます。さらに、ハミルトンの原理はそれを完全な形式に定式化したものです。



 まず、解析力学への導入としてハミルトンの原理を簡単に説明します。いま自由度Nの質点系が、空間の1点P_1\left( q_1^i,t \right)で指定される初期位置からP_2\left( q_2^i,t \right)で指定される終位置へ運動したとします。この間にこの質点系に作用した力のした仕事をWとし、質点系の運動エネルギーの和をTとします。このとき、この系の作用積分

 J_c = \displaystyle \int_{t_1}^{t_2} \left( T + W \right)dt \tag{1}

によって定義します。Tq^i{\dot{q}}^i = dq^i / dtの関数T\left( q,\dot{q} \right)Wは話を簡単にするために、q^iのみの関数W\left( q \right)とします。

 
 この作用積分の値は、1次元運動の場合以外は、一般的に積分経路に依存するので、積分経路を指定するために、cを付記することにします。

 運動経路c運動方程式の解として、初期条件あるいは境界条件、および時間の関数で表されます;
 c : q^i = q^i\left( t,s_0 \right),\ \left( i=1 \sim N \right) \tag{2}


 ここでs_0は初期条件をまとめて記したものです。関数形q^i\left( t,s_0 \right)が決まれば経路cは決まります。作用積分Jは端点P_1,P_2と関数形q^i\left( t,s_0 \right)によって指定されるので、J_cの代わりにJ\left[q\right]と記して、関数形q^iの依存性を明示にすることにします。このように被積分関数の関数形に依存する量を汎関数と呼びます。




変分法とハミルトンの原理

 作用積分から運動方程式を導くための変分法は、端点P_1,P_2を固定したまま経路をcから減少だけ変えた経路c'を考えます。このようにずらした経路c'に対応する座標をq'とします : つまり

 q'^i\left( t \right) = q^i\left( t \right) + \delta q^i\left( t \right) \tag{3}

ただし、両端は固定するので

 \delta q^i\left(t_1\right) = \delta q^i\left(t_2\right) = 0 \tag{4}


このときJ\left[q\right]の変化は

 \delta \displaystyle \int_{t_1(c)}^{t_2} \left( T + W \right)dt = \int_{t_1}^{t_2} \left( \frac{\partial T}{\partial {\dot{q}}^i}\delta \dot{q}^i + \frac{\partial T}{\partial q^i}\delta q^i + K_i \delta q^i \right)dt \tag{5}


ただし、K_iは一般化力の成分で、 \delta W = K_i \delta q^i です。また、

 \delta {\dot{q}}^i = \dot{q}'^i\left( t \right) - \dot{q}^i\left( t \right) = \frac{d}{dt}\delta q^i\left( t \right) \tag{6}


であるから、( 5 ) の第1項を部分積分し、( 4 ) を用いると積分項は消えて

 \delta J \left[ q \right] = \displaystyle \int_{t_1}^{t_2} \left\{ \frac{\partial T}{\partial q^i} - \frac{d}{dt} \left( \frac{\partial T}{\partial \dot{q}^i} \right) + K_i \right\} \delta q^i dt \tag{7}

を得ます。

 ハミルトンの原理は実現される運動経路cに対して

 \delta J\left[ q_c \right] = 0 \tag{8}

を要請するものです。つまり、「作用積分 J\left[ q_c \right] は、質点系の運動が実現される経路cの上で停留値をとる」ということができます。


 このように、ハミルトンの原理は、運動を大域的にとらえ、質点の運動経路上で時刻t_1における始点P_1から時刻t_2における終点P_2までの作用積分を考え、そして、その経路をわずかに変化させた場合の作用積分の変分がゼロになることから、質点系の運動を決定する原理です。



 ホロノーム系にしろ、非ホロノーム系にしろ、拘束条件があるとき、\delta q^iはすべて独立にはとれないので、\delta q^iの係数因子を直ちにゼロと置くことはできません。そこで、このような場合の常套手段として、ラグランジュの未定乗数法を用いるのがいいです。

 ここで注意することは、最小作用の変分は時間を止めた仮想変位なので、拘束条件である\omega_{\alpha} \equiv a_{\alpha i}\left( x,t \right)dx^i  + b_{\alpha}\left(x,t\right)dt=0,\ \left( \alpha=1\sim k \right) dt=0とした式

 a_{\alpha i}\left( q,t \right)dq^i=0,\ \left( \alpha = 1 \sim k \right) \tag{9}

を用いるべきです。したがって、未定乗数 \lambda^{\alpha} をこれに乗じた

 \lambda^{\alpha} a_{\alpha i}\left( q,t \right)dq^i=0

を ( 7 ) に加えます。すると、 \lambda^{\alpha} をうまく選べば、k個の\delta q^{\alpha}の係数因子をゼロにすることができるので、残るN-k個の独立な\delta q^iの係数因子をゼロと置くことができます。こうして、すべての\delta q^iの係数因子をゼロと置けるということです。

 \therefore \frac{d}{dt}\left( \frac{\partial T}{\partial {\dot{q}}^i} \right) - \frac{\partial T}{\partial q^i} = K_i + \lambda^{\alpha} a_{\alpha i} \tag{10}

これが拘束条件のあるときの運動方程式です。最後の \lambda^{\alpha} a_{\alpha i}は拘束条件から出たので束縛力ということです。




ラグランジュ方程式

 K_iが特にポテンシャルU\left( q \right)から導かれるときは

 K_i = -\partial U / \partial q^i \tag{11}

です。そこでラグランジュ関数Lを導入して

 L\left( q,\dot{q}, t \right) = T - U \tag{12}

とおくと、( 1 ), ( 7 ) および ( 10 ) は、それぞれ

 J_c = \displaystyle \int_{t_1}^{t_2}  L\left( q,\dot{q}, t \right)dt \tag{13}

 \delta J\left[ q \right] = \displaystyle \int_{t_1}^{t_2} \left\{ \frac{\partial L}{\partial q^i} - \frac{d}{dt} \left( \frac{\partial L}{\partial \dot{q}^i} \right) \right\}\delta q^i dt = 0 \tag{14}

 \frac{d}{dt} \left( \frac{\partial L}{\partial {\dot{q}}^i} \right) - \frac{\partial L}{\partial q^i} = \lambda^{\alpha}a_{\alpha i} \tag{15}

となります。当たり前ですが、ホロノーム系で拘束条件を消した L\left( q,\dot{q}, t \right) に対しては ( 15 ) の右辺は0です。この方程式はオイラー-ラグランジュ方程式、あるいは単にラグランジュ方程式と呼ばれます。




ラグランジュ関数の不定

 ラグランジュ方程式を導くハミルトンの原理は、作用積分の両端P_1,P_2を固定した変分なので、ラグランジュ関数Lに任意関数Fの時間による全微分dF(q)/dtを加えても、ラグランジュ方程式に寄与しません。ラグランジュ関数はqの高階微分は含まないとしているので、Fqのみの関数とします。すると、

 J'=\displaystyle \int_{t_1}^{t_2} \left( L+\frac{dF}{dt} \right)dt = \displaystyle \int_{t_1}^{t_2} Ldt+F(t_2)-F(t_1) \tag{16}

よって、ラグランジュ関数には時間による全微分項の不定性があることに注意するべきです。