鏡像法

 今回のテーマは「鏡像法」です!

静電場が、

{\displaystyle
\begin{eqnarray}
 \left\{
  \begin{array}{l}
   \nabla \cdot \boldsymbol{E}(\boldsymbol{r}) = \frac{ \rho(\boldsymbol{r}) }{ \epsilon_0 } \\
   \nabla \times \boldsymbol{E}(\boldsymbol{r}) = 0
  \end{array}
 \right.
\end{eqnarray}
}

を満たすというのはご存知だと思います。


 この1階の微分方程式を解くためには境界条件が必要となります。逆に、境界条件を与えれば、解は一意にきまってしまうということです。
 静電場の境界値問題は特殊解を求めるとそれが唯一の解になるので、さまざまな方法を用いて解くことが可能となります。
 与えられた境界条件のもとで、解析的な方法で静電場の境界値問題を解く一般的な方法は存在しませんが、特殊な状況においては解析解を求める方法が存在します。

  1. 鏡像法
  2. 複素写像を用いる方法

などです。今回は、この1.鏡像法について紹介していきます。




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(a)

いま上図(a)にあるようにxy平面を境界としてz<0に広がる導体に対して電荷qを持つ点電荷z>0のある位置 \boldsymbol{r}_0 =
 \left(
    \begin{array}{c}
      0 \\
      0 \\
      a
    \end{array}
  \right) にある状況を考えます。この導体は接地されていて、導体表面で電位はゼロとなっています。ここでz>0の領域では点電荷がつくる電場と点電荷により導体表面に誘起された表面電荷との両方の寄与で与えられます。

この時の静電場はz>0の領域で

 \Delta\phi(\boldsymbol{r}) = -\frac{q}{\epsilon_0} \delta^3( \boldsymbol{r} - \boldsymbol{r}_0 ) \tag{1}

解でz=0境界条件 \phi = 0 \tag{2}を満たすものを求めればよいということです。


導体表面や表面電荷がなくてもz>0で同じ方程式を満たし、z=0で同じ境界条件を満たす、より簡単な系があったとすると、境界値問題の一意性から、その解は今の問題の解を与えるものになります。
そこで導体の代わりにz<0の領域のある位置 \boldsymbol{r}'_0 電荷-q'の点電荷を置いたときを考えましょう。いま2つの電荷があるときの静電ポテンシャルは、


\phi( \boldsymbol{r} ) = \frac{q}{4\pi \epsilon_0 \mid \boldsymbol{r} - \boldsymbol{r}_0 \mid} - \frac{q'}{4\pi \epsilon_0 \mid \boldsymbol{r} - \boldsymbol{r}'_0 \mid } \tag{3}

で与えられます。z>0の領域には新しく電荷はないので式(1)が満たされることは明らかですね。あとは同じ境界条件さえ満たせばよいということになります。2つの電荷があるときの問題において \phi = 0となる点は、
 q'\mid\boldsymbol{r} - \boldsymbol{r}_0\mid = q\mid \boldsymbol{r} - \boldsymbol{r}'_0 \mid \tag{4}
で与えられます。簡単な計算でz>0z<0にそれぞれ電荷があるときに \phi がゼロとなる曲面の方程式は、
 \left\{(q'^2 - q^2)\boldsymbol{r}^2 \right\} - 2\boldsymbol{r}\cdot(q'^2\boldsymbol{r}_0 - q^2\boldsymbol{r}'_0) + q'^2\boldsymbol{r}^2_0 - q^2\boldsymbol{r}'^2_0 = 0 \tag{5}
となることが示せます。式(5)はq'=q,\boldsymbol{r}'_0 = -\boldsymbol{r}_0とおくと方程式z=0になります。したがって、z=0に表面をもつ導体のそばに点電荷をおいたときの静電場の様子は下図(b)のように境界をはさんで対称な位置に大きさが同じで符号が異なる電荷をもつ仮想的な点電荷を置いた問題に置き換えられるということです。このように境界を別の仮想的な電荷で置き換えて解を求める方法を鏡像法といいます。

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(b)


もう1つの例として、原点を中心とする半径Rの球状の接地された導体があり、電荷qをもつ点電荷が導体球の外側のある位置 \boldsymbol{r}_0 =
 \left(
    \begin{array}{c}
      0 \\
      0 \\
      a
    \end{array}
  \right) 
に置かれている状況を考えてみましょう。ここで導体表面r=R \phi の値がゼロになっていることに注意してください。このような場合にも先ほどと同様の考えで、導体がない代わりに電荷-q'の仮想的な点電荷を導体の内部に対応する位置 \boldsymbol{r}'_0 ( \mid 
\boldsymbol{r}'_0 \mid < R ) に置いた状況を考えます。半径r>Rの領域で新しく電荷がないのでもとの問題と同じ方程式(1)が満たされることは明らかです。あとは静電ポテンシャルがゼロとなる曲面を与える式(5)が半径Rの球面と一致するように選びさえすれば、境界値問題の解の一意性からもとの問題の解が得られます。
そこで、
{\displaystyle
\begin{eqnarray}
 \left\{
  \begin{array}{l}
   q' = \frac{ R }{ \mid \boldsymbol{r}_0 \mid }q \\
   \boldsymbol{r}'_0 = \frac{ R^2 }{ \mid \boldsymbol{r}_0 \mid^2 }\boldsymbol{r}_0
  \end{array}
 \right.
\end{eqnarray}
} \tag{6}
とおくと式(5)は原点を中心とする半径Rの球面と一致します。このようにして、電場は導体球の代わりに r < R に仮想的な電荷を置いたときの電場から簡単に求めることができます。

より一般的に複数個の境界がある場合は鏡像法を繰り返して用いることにより境界の向こう側に複数個の仮想電荷がある問題に帰着できます。