重ね合わせの原理 Part 1.

 解析力学を一通り終えて、ここからは量子力学について話を進めていこうと思います。


 いま、ある系を記述する物理量を F とします。例えば、 F は位置や運動量、角運動量などです。またこれからは、粒子などの位置を \boldsymbol{r} のかわりに \boldsymbol{q} とします。これは量子力学が、粒子の速度より運動量 \boldsymbol{p} を優先する正準形式の理論に基づいているからです。


 いままでやってきた古典物理学における物理量 F = F(q(t),p(t))  \boldsymbol{c} 数( classical number )と言います。これを量子力学的な量に移すには、量子化の手続きにしたがって、 F = F(q,(\hbar / i) \partial / \partial q ) とすればよいです。このような量子力学的な演算子を一般に \boldsymbol{q} 数( quantum number )と言います。ここである関数 \phi (q) をとってきて演算子 F を作用させ、新しい関数 F \phi (q) をつくったとします。このとき、 \phi (q) がある特別な関数のとき、 F \phi (q) が元の関数に比例することがあります。その比例定数を f とすると、 F \phi (q) = f \phi (q) です。一般にこのような性質をもった関数は1個とは限らず、数多く存在します。そこでこれらの関数を区別するために、添え字 n をつけて、

 F(q, \frac{\hbar}{i} \frac{\partial}{\partial q} ) \phi_n (q) = f_n \phi_n (q) \tag{1}

と書くことにします。(1) を満たす関数  \phi_n (q) と定数  f_n  を、それぞれ演算子 F 固有関数および固有値といいます。また、これらを区別する添え字  n 量子数といいます。ここでは量子数は離散的な値と仮定しますが、一般には連続的な値をとることもあります。また、同一の固有値  f_n  に属する固有関数は1個だけとは限らず、  m  個の固有関数  \phi_{n, \alpha} (q) (\alpha =1,2, \cdots , m)  が同じ固有値  f_n  に属することがあります。このとき、固有関数  \phi_{n, \alpha} (q)  m  重に縮退しているといいます。ここでは縮退がなく、離散固有値の場合に限って解説をしていきます。



量子論の仮定

仮定Ⅰ (1) の方程式の解として得られた固有状態において、 F に対応する物理量の値を測定すると、その測定値は必ず実数値 f_n になる。


この仮定は、量子力学における基本原理の一つです。また系が固有状態  \phi_{n} (q)にあるとき、その粒子の位置を測定すると、微小領域 dq  内に粒子を発見する確率が  {\mid{ \phi_n(q) } \mid} ^2 dq  とするのが、ボルンの確率解釈です。つまり粒子は空間内のどこかに必ず存在するから

 \displaystyle \int_{- \infty}^{\infty} {\mid{ \phi_n(q) } \mid} ^2 dq = 1  \tag{2}

となります。(2) の条件を満たす固有関数  \phi_n (q) を規格化された固有関数といいます。( (1) は  \phi_n (q) に関する線形の方程式なので、固有関数を規格化するのはいつでもできる )

 いま考えている系の状態は、 F の固有状態  \phi_{n} (q)のどれかであるとは限りません。そこで任意の複素数の組 \{ a_n \} をとってきて、これを重みとして  \phi_{n} (q)を重ね合わせ、新しい状態

 \psi(q) = \displaystyle \sum_{n} a_n \phi_{n} (q) \tag{3}

をつくったとします。どのような状態にあろうと、粒子は空間内のどこかに存在するので、状態 \psi(q) も (2) と同様に

 \displaystyle \int_{- \infty}^{\infty} {\mid{ \psi_n(q) } \mid} ^2 dq = 1 \tag{4}

の条件を満たしていなければならないということです。



仮定Ⅱ 重ね合わせの原理
状態 \psi(q) のもとで、物理量 F を測定したとき、得られる測定値は (1) の固有値 f_n のどれかで、それらの値の中間の値、例えば (f_1 + f_2)/2 のような値が得られことはないということ。その測定値として、すべての固有値の組 \{ f_n \} の中のどれか1つの値 f_n を得た瞬間に、これまでの状態 \psi(q)  F 固有値 f_n に属する固有状態 \phi_n (q) に転移します。そして、その転移確率は、(3) の展開係数 a_n の絶対値の2乗 {\mid a_n \mid}^2 で得られます。

 つまり、

 \displaystyle \sum_{n} {\mid a_n \mid}^2 = 1 \tag{5}

が成立していなくてはいけません。(4) と (5) から

 \displaystyle \int_{- \infty}^{\infty} \psi^{*}(q) \psi(q) dq = \displaystyle \sum_{n} {a}^{*}_n a_n = 1 \tag{6}

です。(3) の複素共役をとって、(6) の左辺に代入すると、

 \displaystyle \sum_{n} a^{*}_n \displaystyle \int_{- \infty}^{\infty} \phi^{*}_n (q) \psi(q) dq = \displaystyle \sum_{n} {a}^{*}_n a_n  \tag{7}

この両辺を比較すると、

 a_n = \displaystyle \int_{- \infty}^{\infty} \phi^{*}_n (q) \psi(q) dq \tag{8}

この式は、状態関数 \psi (q) が与えられているとき、状態 \phi_n (q) に系を発見する確率 {\mid a_n \mid}^2を求める方法を与えます。またこの a_n を一般に確率振幅といいます。
(3) を (8) の右辺に代入すると、

 a_n = \displaystyle \sum_{m} a_m \displaystyle \int_{- \infty}^{\infty} \phi^{*}_n (q) \phi_m (q) dq \tag{9}

となるので、両辺が矛盾しないためには

 \displaystyle \int_{- \infty}^{\infty} \phi^{*}_n (q) \phi_m (q) dq = \delta_{n,m} \tag{10}

でなければなりません。ここで右辺の \delta_{n,m} Kroneckerのデルタです。この (8) の関係を固有関数 \phi_n (q) 規格直交性といいます。

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